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水戸地方裁判所下妻支部 平成3年(わ)103号 判決 1992年2月27日

本籍《省略》

住居《省略》

無職 A

主文

被告人を懲役一〇年に処する。

未決勾留日数中二一〇日を右刑に算入する。

理由

(犯罪事実)

第一  被告人は、平成三年二月一一日午後九時五分ころ、茨城県猿島郡三和町《番地省略》所在のA(当時六六歳)方居宅において、同人に対し、背後から左手でその襟首を掴み、右手で所携の文化包丁一丁(刃体の長さ約一五・七センチメートルで、包丁の柄の部分にプラスチック製湯かき棒の柄の部分をビニールテープで巻きつけたもの、平成三年押第七号の3)をその喉元に突きつけ、「金を出せ。金を出さないと命はないぞ。早く出せ。」などと申し向け、さらに、B(当時二九歳)に対し、「金を出せ。出さないとじいちゃんの命はないぞ。」などと申し向けてそれぞれ脅迫し、右両名の反抗を抑圧した上、Bから、同人が管理する現金六万六〇〇〇円を差し出させて強取したが、その際、右両名と取っ組み合いとなり、右両名に対し、文化包丁を持った手を振り回すなどの暴行を加え、よって、右暴行により、Bに対し、加療約一週間を要する顔面打撲、左前額部挫創の傷害を負わせた。

第二  被告人は、業務その他正当な理由による場合でないのに、前記日時、場所において、前記文化包丁一丁を携帯した。

第三  被告人は、平成三年一月二六日午前一時ころ、茨城県猿島郡総和町《番地省略》所在のC方南側車庫において、同所に駐車中の同人所有の普通乗用自動車に取り付けてあった同人管理のナンバープレート(土浦Xち0000)二枚(平成三年押第七号の1、2は、被告人においてその登録番号を改ざんしたもの)及び同人所有のエンジンオイル一缶(時価約一二〇〇円相当)を窃取した。

第四  被告人は、平成二年一一月二八日午後一〇時ころ、東京都八王子市宇津木町《番地省略》先所在のD方駐車場において、同所に駐車中のE所有の普通乗用自動車に取り付けてあった同人管理のナンバープレート(八王子Xや・000)二枚を窃取した。

第五  被告人は、平成三年一月二二日午後七時三〇分ころ、栃木県佐野市韮川町五七八番地所在の佐野市営火葬場西方約二〇〇メートル付近の路上において、自分の運転する普通乗用自動車のクラクションを鳴らすなどして、F子(当時二三歳)が運転する軽四輪乗用自動車を停車させ、いきなり同車両の運転席に乗り込み、同女の頸部を両手で絞めつけるなどの暴行を加えながら、「よくも笑ったな。」などと因縁をつけた上、「死ね。殺されたいのか。抵抗したら殺す。」などと強い口調で脅迫し、同女の衣服を無理やり剥ぎ取って全裸にし、同女を右車両の後部座席の床に押し込めるなどの暴行を加えた上、同日午後八時一〇分ころ、同車両を運転して同市同町五九四番地付近の空き地まで同女を連行し、同所に駐車した右車両の中で、「言うことを聞かないと殺すぞ。逆らったりすると、俺はナイフを持っているぞ。」などと申し向けて同女を脅迫し、同女の反抗を抑圧して、強いて同女を姦淫したが、その際、右暴行により、同女に対し、加療約一週間を要する頸部、顎部及び左膝部圧痕の傷害を負わせた。

第六  被告人は、平成三年一月二九日午後一〇時ころ、栃木県小山市大字白鳥六五四番地付近路上において、自分の運転する普通乗用自動車の前照灯を何回も点滅するなどして、G子(当時二二歳)運転の普通乗用自動車を停車させ、いきなり同車両の運転席に乗り込んで、同女の頸部を両手で絞めつけるなどの暴行を加えながら、「抵抗したら、俺はナイフを持っている。」などと強い口調で脅迫し、さらに、運転席の背もたれと一緒に同女を後ろに押し倒して同女の上にまたがり、片手で同女の頸部を締めながら、同車両を運転して同市大字白鳥五六四番地付近の農道まで同女を連行し、同所に駐車した右車両の中で、同女の衣服を無理やり剥ぎ取って全裸にするなどの暴行を加え、同女の反抗を抑圧して、強いて同女を姦淫したが、その際、右暴行により、同女に対し、全治一週間を要する頸部挫傷の傷害を負わせた。

(証拠)《省略》

(補足説明)

第一  弁護人は、第五及び第六の事実について、被告人による犯行ではない旨主張し、被告人も犯行を全面的に否定する供述をしているので、若干の補足説明をする。

第二  第五の事実(F子に対する強姦致傷)について

一  犯人の特徴について

1 被害者F子は、捜査官に対する供述調書及び公判廷において、犯人と約一時間五〇分にわたって接触していたが、被害当時、犯人の車両の前照灯や犯行現場付近に設置されていた工事用の回転灯の明かり、あるいは犯人が使ったライターの炎等により、運転席に乗車していた犯人の人相が助手席から識別できる状況にあり、犯人の顔の輪郭、目付き、口もと、頭髪の状況等が、かつらを装着したときの被告人のそれと酷似しており、犯人は被告人に間違いない旨供述し、また、H子は、捜査官に対する供述調書及び公判廷において、犯行当日の午後七時五〇分ころ、佐野市営火葬場西方約二〇〇メートル付近の道路を乗用車で通行したが、普通乗用自動車と軽四輪乗用自動車が前照灯を点灯したまま路上に前後して駐車しているのを見て何となく不審に思い、同日午後八時五分ころ、再度同所を通りかかった際、前と同じ状態で駐車したままの各車両の様子を窺いながら、そのすぐ脇を徐行して通過しようとしたところ、軽四輪乗用自動車内において、男が後部方向を向いてうつ伏せのような状態でいるのが見え、さらにその男の左腕の脇の下から女の手のようなものが見えたので、最初はアベックかとも思ったが、視線が合った瞬間の男の目付きの鋭さや顔全体の表情、その場の状況から通常のアベックとは思えず、いっそう不審に思った。その男は、濃紺あるいは灰色がかった作業服かジャケットを着ていたが、目と顔の輪郭から、被告人に間違いない旨供述している。

2 関係証拠によれば、犯行当日ころ、犯行現場付近道路において、舗装工事が行われており、危険防止のため、工事用の回転灯が設置されており、犯行現場付近は相当程度明るかったこと、犯行現場において、F子の目撃状況を再現したところ、点灯させたままの車両の前照灯や、車内で着火したライターの炎等によって、助手席から運転席に乗車している者の顔を確認することができたこと、H子の目撃状況は、F子が捜査段階で供述している被害状況と概ね符合していること、犯行現場において、H子の目撃状況を再現したところ、普通自動車の前照灯や前記工事用の回転灯の明かりで、車内にいる者の人相が識別できたこと、被告人方から、紺色の作業服が発見されたこと、F子は、事件後、警察署で保管中の被告人の写真と他の男の写真一四枚とを混ぜた写真面割帳を示され、一覧してすぐ被告人の写真を摘出し、犯人が被告人と同一人物であることを確認している上、いわゆる面通しにより、見た瞬間に、被告人が犯人であると断定していること、H子も、事件後間もなく、右写真面割帳を示されて躊躇なく被告人の写真を選び出し、目撃した男が被告人と同一人物であることを確認し、かつ、面通しによってもその同一性を確認していること、被告人は、日頃から、就寝時以外はかつらを装着しており、判示第一の犯行当時もかつらを携帯していたことが認められ、これによれば、F子及びH子の右各供述は、いずれも信用性が高い。

二  犯行に使用された車両について

1 F子は、捜査官に対する供述調書において、犯人の車両は、前照灯の形が真四角で、排気量一八〇〇ccから二〇〇〇cc位の車であり、八王子ナンバーで、四桁のナンバーのうち左から二桁目が「0」である旨供述しており、H子は、捜査官に対する供述調書及び公判廷において、前記不審車両を目撃した際、普通乗用自動車のナンバープレートが「八王子」の「0000」であることを記憶し、帰宅するとすぐにそのナンバーを家計簿に記載しておいた旨各供述している。また、Iは、捜査官に対し、本件犯行当日の午後八時四五分ころ、車で前記火葬場付近道路を通行した際、前照灯をつけたまま駐車している白色の普通乗用自動車一台を目撃したが、その車名、型式は、日産ブルーバードU一一型であった旨、J子は、捜査官に対し、本件犯行当日の午後九時二〇分ころ、同所において、同様の状態で駐車中の古い型の白色日産ブルーバートを目撃した旨それぞれ供述している。

2 関係証拠によれば、被告人は、平成二年一二月二五日、埼玉県秩父郡吉田町のK商会ことKから、白色日産ブルーバード(登録番号・熊谷Xね0000、型式・E―U一一、総排気量・一八〇〇cc、以下「被告人車両」ともいう。)を代金二二万円で購入し、以後平成三年二月八日までの間、同車両を使用していたこと、被告人は、平成二年一一月一八日東京都八王子市でナンバープレート「八王子Xや・000」(第四事実の被害品)を窃取し、平成三年一月中旬ころ秩父山中において右ナンバープレートの「0」の数字の前の「・」を「0」に書き替え、「八王子Xや0000」と改ざんし、その後さらにこれを「八王子Xや0000」と改ざんして所持していたこと、登録されている自動車のうち、「八王子」の「0000」のナンバープレートを取り付けた車両は全部で四二台あるが、そのうち白色日産ブルーバートU一一型のものは存在しないこと、H子の家計簿に目撃車両のナンバーとして「0000(八王子)」と明瞭に記載されていること、Iは、日産車の部品製造会社に勤務しており、日産車の車名と型式等を正確に識別することができること、J子も、かつて自動車販売会社に勤務していたことがあって自動車に興味があり、車名等に詳しいこと、I、J子の両名は、犯行の翌日、現場付近で検問していた警察官に対しても前記供述内容と同旨の目撃状況を告げていることがそれぞれ認められ、これらによれば、犯人の車両を目撃した者らの右各供述はいずれも信用性が高く、犯行に使用された車両は、被告人車両であると認めるのが相当である。

三  犯人の遺留物について

1 関係証拠によれば、犯行現場に遺留された犯人の煙草の吸殻に被告人と同じ血液型(ABO式)の唾液が付着していたこと、F子の車両助手席シートカバー及びF子の膣内等から精液が検出されたが、その精液の血液型(ABO式)及びDNA型(MCT118型、TNN24型、CMM101型、HLADQα型)と被告人から採取した血液のそれとを対照すると、いずれも同型であり、右精液と同じ血液型及びDNA型を示す日本人の出現頻度は、一六〇〇万人に一人という確率であることがそれぞれ認められる。

2 関係証拠によれば、犯人は、犯行後、所携の針金でF子の両手親指を後ろ手に緊縛して逃走しているが、被告人車両内から、F子を緊縛したものと同種の針金が発見され、F子を緊縛した針金の切断面は、被告人車両内にあったプライヤーによって生じうることが認められる。

四  犯行の手口について

関係証拠によれば、被告人の前々刑(昭和五五年一一月一一日前橋地方裁判所桐生支部判決)及び前刑(昭和六〇年一二月一〇日浦和地方裁判所熊谷支部判決)の強姦の犯行の手口は、いずれも自動車を運転している女性を追尾した上、クラクションを鳴らすなどして停車させて因縁をつけ、暴行脅迫を加えてその車両に乗り込み、人気のない場所に連行し、女性を全裸にして強姦するというものであり、さらに前刑の強姦においては、被害者を所携の針金で後ろ手に緊縛していることが認められ、いずれも本件犯行の手口と酷似している。

五  以上の認定判断及び前掲各証拠によれば、本件犯行は被告人によるものであることが認められ、犯行を否定する被告人の公判供述は信用することができない。

第三  第六の事実(G子に対する強姦致傷)について

一  犯人の特徴について

1 被害者G子は、捜査官に対する供述調書及び公判廷において、犯人と約一時間にわたって接触していたが、犯人の顔をいろいろな角度から目撃しており、また、犯行当夜は月が出ていたので、月明かりによってある程度見通しがきいた上、車両の室内灯がしばらく点灯したままになっていた時間もあったことや、犯人が数回煙草を吸った際、その度ごとに煙草の明かりでさらによく見えることがあったことなどから、犯人の人相が識別できる状況にあり、犯人の顔の輪郭、目の大きさ、額の広さ、頭髪の状況等が、かつらを装着した被告人に酷似しており、犯人は被告人に間違いない、犯人は、胸にポケットが二つついた紺色作業服を着て茶色っぽい靴を履いていた旨各供述している。

2 関係証拠によれば、犯行現場において、犯行当時のG子の目撃状況を再現したところ、車両の室内灯や着火した煙草を吸った際の明かりで犯人の顔の輪郭を確認することができたこと、G子は、事件後間もなく、警察署で保管中の被告人の写真と他の男の写真九枚とを混ぜた写真面割台帳作成報告書を示され、被告人の写真を摘出して、犯人が被告人と同一人物であることを確認し、さらに、面通しによっても、見た瞬間に被告人を犯人であると断定していること、被告人方から、胸にポケットが二つついた紺色作業服(前記第二の一の2の紺色作業服と同一のもの)及び茶色の靴が発見され、G子がこれらを示されて犯人が身に付けていた物と酷似していることを確認していることがそれぞれ認められ、これらによれば、G子の右各供述は信用性が高い。

3 なお、G子は、被害届及び告訴状において、犯人の顔の輪郭について丸顔と記載し、後に取調べや公判廷においては、面長の顔と供述しているが、G子が、顔の輪郭以外に、犯人の特徴と被告人のそれと類似している点をいくつか指摘していることや、前記のとおり、面通しの際に被告人が犯人であると明確に識別しえたことなどを考慮すると、右のような齟齬は、G子の供述の信用性に影響を及ぼさない。

二  犯行に使用された車両について

G子は、犯人の車両は、二〇〇〇cc位の白っぽい古い型の車であった旨供述しているところ、被告人車両は、前記第二の二の2のとおりであるから、G子の供述は、これと符合する。

三  犯人の遺留物及び犯行の手口について

1 関係証拠によれば、G子の車両内で犯人が使用したちり紙から精液が検出されたが、その精液の血液型(ABO式)及びDNA型(MCT118型、TNN24型、CMM101型、HLADQα型)と、被告人から採取した血液のそれとを対照すると、いずれも同型であり、右精液と同じ血液型及びDNA型を示す日本人の出現頻度は、七〇〇〇万人に一人という確率であることが認められる。

2 前記第二の四と同様、被告人の前科中の強姦の犯行の手口が本件犯行と酷似している(但し、針金を使用している点は除く。)。

四  以上の認定判断及び前掲各証拠によれば、本件犯行は被告人によるものであることが認められ、犯行を否定する被告人の公判供述は信用することができない。

第四  以上のとおりで、弁護人の主張はいずれも採用することができない。

(累犯前科)

1  事実

昭和六〇年一二月一〇日浦和地方裁判所熊谷支部宣告

窃盗、道路運送車両法違反、強姦致傷の各罪により懲役五年

平成二年一〇月二〇日刑の執行終了

2  証拠

前科調書、判決書謄本(乙15)

(法令の適用)

1  罰条

(1)  第一の行為 刑法二四〇条前段、二三六条一項

(2)  第二の行為 銃砲刀剣類所持等取締法三二条三号、二二条

(3)  第三、第四の各行為 それぞれ刑法二三五条

(4)  第五、第六の各行為 それぞれ同法一八一条、一七七条前段

2  刑種の選択

(1)  第一、第五、第六の各罪 それぞれ有期懲役刑

(2)  第二の罪 懲役刑

3  累犯加重

それぞれ刑法五六条一項、五七条

4  併合罪の処理

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、一四条(第一の罪の刑に加重)

5  未決勾留日数の算入

刑法二一条

6  訴訟費用

刑訴法一八一条一項但書(負担させない。)

(量刑について)

一  本件は、被告人が、二台の自動車のナンバープレートを盗んでこれらを改ざんした上、犯行が発覚しにくいように、自分の使用している自動車に取り付けて乗り回し、若い女性を次々と強姦し、その際、各被害者に傷害を負わせたのみならず、包丁を携え住宅に押し入って金員を強取し、その際、家人に傷害を負わせたという事案であって、いずれも計画的になされたものである上、強姦致傷及び強盗致傷の犯行態様は狡知かつ残忍で、犯情は極めて悪質である。

二  被告人は、本件各被害者に対し、何ら慰謝の措置を講じておらず、被害者らの被告人に対する処罰感情は大きい。また、被告人には同種前科を含め多数の前科があり、本件が前刑終了後間もない犯行であるなど、被告人の犯罪傾向は深化している。さらに、被告人は、各強姦致傷については、事実を全面的に否認し、罪責を免れようという態度を示しており、反省の情が希薄である。

(出席した検察官磯田宣雄、同大内庸右、同弁護人上野賢太郎)

(裁判長裁判長 市川頼明 裁判官 川島利夫 裁判官 岸日出夫)

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